01メッセンジャーの侵略

どうも、お久しぶりです。
前に記事を書いてから、早一月が経とうとしており、気づけば今年も終わりです。

実はいろいろ書きたいことはあるのですが、まだうまくまとまっておりません。

そのかわりといってはなんですが、前に授業で書かされたレポートを載せてみようと思います。テーマは「2012年のテレビ視聴」ということなんですが、実質地上デジタル放送についてのレポートになってしまいました。ほんとはもっと色んな側面から書くべきなんですけど、まぁ、諸事情がありまして…。
できもイマイチなんですが、次回へのつなぎとして気が向いたら読んでみてください。あと、かな真面目なレポートなんで読んでも面白くないとは思いますよー。




1.はじめに
 
テレビ放送が始まって五十年以上が過ぎた。この間にテレビはさまざまな変容の過程を辿ってきた。白黒からカラーへ、そしてCATVや衛星放送の登場。これらの変化は各時代において大きな衝撃を持つものであったといえるだろう。
 しかしながら、2000年代における変化はそれまでのものとは比べようもないほどに巨大なインパクトをもって私たち視聴者の眼前に現れ始めている。通信技術の発達により、放送と通信の境界はこれまで以上に不明瞭となり、インターネットによるテレビ視聴も最早当たり前のものになっている。またワンセグの登場によりテレビはいつでもどこでも視聴が可能になり、テレビ視聴のスタイルに新たな形態を持ち込んだともいえよう。そして、これらの中でも最大級の波は地上波デジタルの開始に伴い、2011年でアナログ放送が停波するという事態であろう。地上波テレビは私たちのテレビ視聴の中心にあった重要な存在である。これまで五十年揺らぐことのなかったこの地上波テレビの姿が大きく変ろうしていることはすなわち、私たちの生活の一部が大きく変化するといっても過言ではないだろう。
 そこで今回のレポートではその2011年から一年後の2012年に私たちのテレビ視聴のあり方はどのようなものになっているのかということについて、主に地上波デジタル放送を中心に現在における調査から導き出される姿を考えて見たいと思う。
 このレポートにおいて私は2012年のテレビ視聴を三つのキーワードに分けて考えていくことにする。その三つとは

(1)ハード(2)ソフト(3)視聴者 

以上の三点である。これら三つの要素は2012年という近い将来においていかなる変容をとげているのであろうか。そして、その変容が私たちの視聴形態にどのような影響を与えるのであろうか。

2.ハード

 まず、これらの要素のうち、もっとも劇的な変化を遂げると予測できるのがハード面である。ハード面においてはデジタル化により高画質、高音質が期待できるのは間違いないだろう。
しかしながら、最大のポイントは日本のテレビを視聴している全世帯において地上波デジタル放送に対応した設備が整っているかどうかということ、さらにはそのすべての世帯をデジタル電波がカバーできているかということに尽きるだろう。つまり、視聴者側のハード、放送局側のハードの両面で考えなければならない。
 前者の視聴者側の問題だが、承知の通り地上波デジタル放送を視聴するためには、専用の受信機、もしくはチューナーが必要である。現在、日本の総世帯数は4800万世帯そしてテレビの台数は少なくとも一億台以上と言われているなかで、これらすべての機器をデジタル対応にすることは可能なのだろうか。
NHK放送文化研究所の鈴木祐司氏の調査・研究 によれば*1デジタル受信機の普及ペースはかなりの勢いであるとされる。鈴木氏の研究によれば01年4月のデジタル受信機の出荷数を100として05年までの各4月を比較すると以下の通りである。

01年4月:100
02年4月:325
03年4月:375
04年4月:725
05年4月:1,391

 これだけを見ると伸び率は高いように思えるが、実際の数字を見ると、JEITAの統計*2 では2006年9月現在の地上波デジタル放送受信機の国内出荷実績は累積で約1300万台にとどまっている。つまり、先にあげた1億台を目標にするならば、残り5年弱で8700万台以上の出荷がなされなければならないということである。結局、伸びが高いのはそもそもの数が少ないからであり、実際にはそれほどの出荷数ではないということである。さらに出荷数=普及数というわけにはいかない ので、実際の普及はもっと少ないと考えられる*3。また世帯普及の面から見ても06年5月に総務省情報通信調査局によって発表された調査*4 によると、世帯普及率は15.3%となっており、全世帯への普及はまだまだ遠い道のりと言わざるを得ないだろう。総務省が設定したロードマップ に追いついていないのは言うまでもない。ロードマップでは2006年のサッカーW杯ドイツ大会の時点において、1000万世帯、1200万台の普及を目指していたが、現時点で出荷台数は約1300万台を超えてはいるものの、出荷台数=普及台数ではないことは先でも述べたとおりであるし、世帯数に至っては4800万の15.3%、約734万世帯ほどでしかないのである。この分では2011年に4800万世帯、1億台の普及を見せるのは不可能ではないだろうか。また、その翌年の2012年に至ってもその目標が達成できているとは言いがたい。つまり2012年の時点で地上波放送を見ることができない人が発生するということである。
 以上は視聴者側から見たハード面における問題であるが、それと同様に課題を抱えているのが放送局側のハード、つまりカバー率の問題である。
 地上波テレビの性質上、アナログからデジタルに切り替わるためには現状のサービスと同等のカバー範囲を実現することは当然のことである。なぜならば日本の放送事業者には「あまねく放送義務」という法的要請が課されているからである。
 現在のところ、今年の12月中に全国の親局はデジタル化を完了する予定である。しかしながら、中継局のデジタル化となると話は変わってくる。前述の鈴木氏の調査においてなされた放送事業者へのアンケートによれば、2011年までに全ての中継局をデジタル化する予定の放送局は全体の20%ほどでしかない。つまり2011年の段階で日本のどこかでは地上波の電波が届かない地域が少なからず存在するということである。
 これは重大な問題である。いざデジタル放送が始まってみて対応受信機もそろえたのに電波が届かないのでは話にならない。このような事態に対して放送局側は光ファイバーや衛星などを利用してなんとか視聴可能にしようと考えているようだが、この案も現実のものとするにはいささか無理があるのではないだろうか。まず、光ファイバーが日本全国に敷設できるわけではない。これも設置できないところは少なからずあるのである。また衛星による放送の可能性だが、技術的には問題なく可能とされている。しかし、それならば始めから地上波などに頼らずとも、全国に衛星から電波を飛ばせばいいのではないのかという問題に突き当たる。このことは放送の地域性や多様性の問題にかかわってくることになる。つまり衛星を使うのならローカル局の存在意義がなくなってしまうのである。後にも述べることになるが、地上波デジタルに期待されることのひとつに地域情報の充実がある。このことを実現するためにもやはり中継局を用いた地上波によって放送が行われるべきだが、現状として難しいといわざるをえないだろう。
 それから放送局の設備に関して言うと、HDTV用の画面を撮るためにはそれようの機材が必要となるが、キー局はともかくとして現在でさえ経営状況が苦しいローカル局が機材を充実させることは難しいのではないだろうか。
 以上のようにハード面においては2012年において地上波デジタル放送が何の問題も無く実施されているとは到底いえないだろう。

3.ソフト

 これまでハード面について考えてきたが、ここからはソフト面について考えてみよう。地上波デジタル放送によって現在の番組内容が大幅に変化するとは考えられない。大きな変化として考えられることはデータ放送や多チャンネル化によるマルチ編成であろう。
 ここで私が一番重要だと考えていることは地上波デジタル放送における地域情報の細分化、充実化である。ここで04、05年に東海地方で行われた実験・調査*5
を紹介したい。
 この実験は「地上デジタル放送を地域情報インフラとして活用する調査研究会」によって行われたもので、具体的には04年に名古屋市で行われたITS世界大会*6 、そして05年の愛知万博においてこれらのイベント情報や気象情報、グルメ情報並びにカーナビ機能などを地上波デジタル放送に対応した家庭用テレビ、PC、携帯電話、カーナビ向けにデータ放送をつかって送信し、後に愛知、三重、岐阜及び静岡の各県庁所在地においてアンケートによる実証実験を行い、地上デジタル放送におけるデータ放送の地域情報インフラとしての可能性を検討した。以下の結果は報告書からの抜粋*7である

実証実験の際に実施したアンケート調査結果のポイントは、次のとおりである
(1) 地上デジタル放送の機能に対する認知度は「一部知っていた」を含め58%であった。
(2) 地域のイベント情報、グルメ情報、交通情報、自治体情報等の地域情報に関心を持つ人は81%であった。
(3) カーナビ、携帯電話での地上デジタル放送の視聴に興味を持つ人は64%であった。
(4) テレビとカーナビとのデータ連動に関心を示す人は65%、携帯電話の通信機能との連動に関心を示す人は62%であった。

これらの結果からみると、国民は地上デジタル放送・データ放送を地域情報インフラとして活用することに期待しており、また視聴者は家でのテレビ視聴のみならず、屋外においても「テレビ放送番組」を視聴することに興味を示しており、同時に、データ放送により「地域情報」を提供されることへの関心が高いこととなった


 この研究が示すとおり、地上波デジタルの特徴であるデータ放送は地域情報を発信するメディアとしての存在価値があり、視聴者もまたそれを望んでいるといえよう。
 また、私が地域情報インフラとして地上波デジタルに期待する点はデータ放送だけではない。多チャンネル化によるマルチ編成においても地域性を前面に出した番組制作ができるのではないだろうか。つまり、メインチャンネルではキー局からの番組を放送しながらもサブチャンネルでは地方局独自の番組を流すことができるのではないだろうか。もちろん、地方局の懐具合などの問題もあり、2012年にこれが実現できるとは到底思えないが、少なくともデータ放送による地域情報は2012年の段階でも十分実現可能だと思われる。
 このように地上波デジタル放送におけるソフトはこれまでの番組以上に地域性を示す可能性を秘めているのである。

4.視聴者

 さて、これまでハード、ソフトといった面から2012年のテレビ視聴について考えてきたが、最後にわれわれ視聴者がどのように変わっていくのかを考えてみたいと思う。
 私たちは地上波デジタルの開始によって視聴態度に変化をきたすのであろうか。NHKの放送文化研究所による調査によれば、地上波デジタル放送を見たいとは思わない人が三割ほどいるという。またその中の多くが60〜70歳以上の年齢層の人たちだという。この傾向が今後も続くとすれば、2012年の時点で地上波デジタルの利用において大きなギャップが生まれていることになるだろう。若い世代がデータ放送などの新しい機能を使いこなす一方で、高齢者の多くが利用法に困るという事態も起こりかねない。いわゆるデジタルディバイドがパソコンなどの世界だけでなく、誰もが簡単に利用できたはずの地上波においても引き起こされる恐れがあるだろう。また男女の間でも多少のギャップが見られるため、将来この間でも程度は違うが同じ事が起きるかもしれない。これを選択の幅の問題であるとして片付けることもできるかもしれない。しかし、わざわざ高額を払ってデジタル対応の機器を買ったのに、使い方がアナログと全く同じでは何に金を払ったのかさっぱりわからないではないか。
 このことは日本人のテレビ観を大きく変化させる原因となる可能性がある。現在の日本人の多くがテレビをユニバーサル・サービスとして捉えている。つまり、どこの誰にとっても容易に利用できるという考え方である。しかし、上記のような格差が生まれれば、それはもはやユニバーサル・サービスとは言えないだろう。それはこれまで50年以上もかけて築いてきたテレビへの信頼を貶めることになるかもしれない。果たしてそれはテレビが進むべき道なのだろうか。

5.終わりに

 今回のレポートでは主に地上波デジタル放送に焦点を絞り、将来のテレビ視聴について考えてきた。もちろんCATVやBS、CSも将来に影響を与える可能性があることは理解しているつもりである。しかし、日本人にとってテレビ視聴の基本はやはり地上波なのである。その地上波がこれまでに無い変容を遂げようとするならば、そこに大きな関心を抱かずにはいられないだろう。
 ただ、最大の問題はどう考えてみてもこのまますんなりと地上波デジタルが進んでいくとは思えない点である。これまで述べたようにハードの普及についてはまだまだ課題が残されている上に、普及したところで利用状況に格差が生まれることもありうる。そのような課題を抱えつつも、停波期限は刻々と進み、具体的な説明がないままにデジタル化すれば全てが上手くいくように思わせる能天気なCMが毎日流されている。私はこの状況になんとも言えない違和感を覚えているわけではあるが、そんなことを私が感じたところで、一度決まったものが覆ることはほぼ無いであろう。
 ただ、アメリカでは土壇場になってアナログ停波の期限が延長されたという例もある。日本がまずなすべきことは先行する諸外国の動きから学ぶことではなかったか。日本は地上波デジタルで世界に取り残されるという不安感から安易にデジタル化を進めてしまったのではないだろうか。
 ソフトの面で取り上げたように、地上波デジタルのもつ可能性は素晴らしいものだと私は考えている。ただあまりにも計画の立て方が甘い感じは否めないだろう。2011年に停波するにせよ、しないにせよ、困るのは視聴者であり放送界である。ここで失敗すれば放送の未来には暗雲が立ち込めることになるであろう。それだけは理解してデジタル化を進めていただきたい。




参考文献・資料

金山勉「地上波デジタル化の完了 米国からのレッスン」『放送文化基金 研究報告』
    http://www.hbf.or.jp/grants/pdf/j%20i/15-ji-kanayama-tsutomu.pdf
辛坊治郎『TVメディアの興亡』集英社 集英社新書 2000
鈴木祐司「2011年テレビはどうなっているのか」
『放送研究と調査』日本放送出版協会2005年7月号p32-55

民放労連・メディア総合研究所「放送の未来」
http://www.minpororen.jp/html/message/mirai.pdf
総務省情報通信政策局「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」2006年
           http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060526_5_1.pdf
総務省 情報通信統計データベース http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/

地上デジタル放送を地域情報インフラとして活用する調査研究会
地上デジタル放送を地域情報インフラとして活用する調査研究 報告書」http://www.tokai-bt.soumu.go.jp/tool/download/pdf/chijou-dejital1.pdf



はい、というわけでレポートでした。

さて、このたび、ワタクシ思いつきというか勢いでミクシィをやめたんで、ここでマフェトンレディオのリンクを張らせていただきたいと思います。ちなみにマフェトンレディオとはワタクシとその友人でやっておりますネットラジオのことで、今回で16回目の配信となっております。
何かの縁でこのブログにいらっしゃった方、ぜひ一度お聴きいただければと思います。

http://mafeton.cocolog-nifty.com/blog/

それでは、次回は早めに更新いたします。

*1:鈴木祐司「2011年テレビはどうなっているのか」『放送研究と調査』2005年7月号p32-55

*2:JAITA「2006年地上デジタル放送受信機国内出荷実績」http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/digital/2006/index.htm

*3:ジャーナリストの坂本衛氏によれば、99年1月から03年のある時点でのCSチューナーの出荷台数は300万台以上であり、98年までの加入件数が100万件以上であったので、少なくとも400万台以上が出荷されているという計算になるが、その時点における加入件数は300万件ほどだったという。つまり、出荷台数と普及台数は一致しないのである。

*4:地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060526_5_1.pdf

*5:地上デジタル放送を地域情報インフラとして活用する調査研究会「地上デジタル放送を地域情報インフラとして活用する調査研究 報告書」http://www.tokai-bt.soumu.go.jp/tool/download/pdf/chijou-dejital1.pdf

*6:ITSとは、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、交通事故、渋滞などといった道路交通問題の解決を目的に構築する新しい交通システム。ITS世界会議は、ITS関係の研究開発を行う研究者、企業、行政の関係者が、活動成果を発表する会議。1994年にパリで開催された第1回大会以来、年に1回開催されている。(国土交通省道路局ITSホームページ: http://www.its.go.jp/ITS/j-html/index.htmlより)

*7:前述報告書p46